この記事では、医療ビッグデータ活用における現実的な課題と、その対策についても紹介しています。個人情報保護やデータ標準化といった課題に対し、国が推進する「次世代医療基盤法」や「データヘルス改革」といった法整備の実態を解説。
医療ビッグデータとは、日本全国の医療機関や薬局、健康保険組合などがそれぞれ保有している、個人の膨大な医療情報を統合・集約したデータ群のことです。具体的には、電子カルテに記載される診療データ、健康診断の結果、薬局での調剤データ、レセプト(診療報酬明細書)情報などが含まれます。
これらのデータは、単に量が多い(Volume)だけでなく、テキストや数値、画像など多様な形式(Variety)を含み、高速で生成・更新(Velocity)されるという、ビッグデータ特有の3つの「V」要素を備えています。従来は医療機関ごとに分散管理されていたこれらの情報を集約し、解析・活用することで、患者一人ひとりに最適な医療の提供や、新しい医薬品・治療法の開発、医療政策の立案など、医療分野全体の発展に役立てることが期待されています。
医療ビッグデータが急速に注目を集めている背景には、技術的・社会的の2つの側面があります。技術面では、インターネットの普及やコンピュータの計算能力の飛躍的な向上が挙げられます。これにより、かつては処理が困難だった膨大なデータを、低コストかつ高速に分析できるようになりました。医療現場でもクラウド型電子カルテの導入が進み、データの収集・管理・共有が格段に容易になっています。
社会面では、日本が直面する「超高齢化社会」という喫緊の課題があります。国民の健康寿命の増進や、増大し続ける医療費の適正化、医療保険制度の持続可能性の確保は、待ったなしの状況です。こうした課題解決の切り札として、医療ビッグデータを分析し、病気の早期発見や予防医療、効率的な医療提供体制の構築に活かそうという動きが活発化しています。官公庁も「データヘルス改革」や「Society 5.0」といった構想を掲げ、国全体でその活用を推進しています。
医療ビッグデータは、実際の診療現場で得られるデータという意味で「リアルワールドデータ(RWD)」とも呼ばれ、その種類は多岐にわたります。代表的なものとして、以下のデータが挙げられます。
まず「レセプトデータ」です。これは医療機関が保険者に医療費を請求するために発行する診療報酬明細書で、傷病名や行われた医療行為、処方された薬剤の情報が含まれます。次に「DPCデータ」は、急性期の入院医療で用いられる診療報酬の包括評価制度(DPC制度)に基づき作成されるデータで、カルテの概要のような情報を含んでいます。
また「電子カルテや検査データ」も重要です。医師による診療の経過記録や、血液検査、画像診断の結果など、詳細な治療情報が集約されています。「健診情報」は、健康診断や人間ドックの結果であり、特に生活習慣病の研究に活用されます。さらに「PHR(Personal Health Record)」と呼ばれる個人の生活記録(血圧、体重、歩数など)も含まれ、日常生活と疾病との関連性を分析するために重視されています。
医療ビッグデータを活用する上で最も重要な課題が、個人情報の保護です。医療データには、病歴や遺伝情報など、極めてセンシティブな「要配慮個人情報」が大量に含まれます。これらの情報が万が一漏洩したり、不適切に取り扱われたりすれば、深刻なプライバシー侵害につながる恐れがあります。
複数のデータを組み合わせることで個人が特定されるリスクもあるため、活用には強固なセキュリティ対策や、データを取り扱う人材への情報セキュリティ教育が不可欠です。個人の権利利益の保護と、医療の発展という公益性のバランスをどのように取るかが、法制度と運用の両面で常に問われ続ける課題となっています。
医療データは、その多くが各医療機関やシステムごとに異なる形式で保存されており、標準化が進んでいないという課題があります。例えば、電子カルテの記載方法や検査データの単位が病院によって異なれば、それらを統合して分析することは困難です。これでは、集めたデータの品質が担保できず、AIなどが正確な分析結果を導き出すこともできません。
この問題を解決するには、医療データを国際的な整合性も考慮しながら標準化し、質の高いデータを収集・共有できる基盤(プラットフォーム)を整備することが急務です。データの形式や管理方法がバラバラな「サイロ化」を解消し、良質なデータをいかにして集めるかが、利活用を進める上での大きな障壁となっています。
医療ビッグデータを効果的に活用するためには、高度なデータ分析スキルと医療分野の専門知識の両方を併せ持つ人材が不可欠です。しかし、膨大なデータを処理・分析できるデータサイエンティスト自体が社会全体で不足している上に、医療の専門知識も理解している人材はさらに希少です。
医療の専門知識を持った分析人材の育成は、医療ビッグデータ活用における喫緊の課題となっています。比較的新しい分野であるため、大学や企業における人材育成プログラムの整備が追いついていないのが現状です。この人材不足が、実際の医療現場や研究開発におけるデータ活用の足かせとなっています。
こうした課題に対応するため、国は法整備と具体的な施策を進めています。その中核となるのが、2018年に施行された「次世代医療基盤法(医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律)」です。この法律により、患者の医療情報を適切に匿名加工した上で、新薬の開発や医学研究などのために利活用しやすい環境が整備されました。
2024年4月には改正法が施行され、従来の「匿名加工医療情報」よりも詳細な分析が可能な「仮名加工医療情報」が新設されるなど、データ活用の幅がさらに広がっています。また、厚生労働省が推進する「データヘルス改革」では、国が保有するNDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)と介護DB(介護保険総合データベース)の連結解析を可能にするなど、官民一体となったデータ活用が強力に推進されています。
医療ビッグデータの活用は、AI(人工知能)技術と組み合わせることで、その可能性を飛躍的に高めます。特に期待されているのが、画像診断支援や病気の早期発見です。例えば、過去の膨大なレントゲン画像や病理画像をAIにディープラーニング(深層学習)させることで、人間では見落としてしまうような微細ながんの兆候や病変を検出することが可能になります。
AIは医師の経験や勘に依存せず、常に一定のパフォーマンスで客観的な判断を補助できるため、診断ミスの軽減や医療の属人化解消に大きく貢献します。また、スマートウォッチなどで収集されるPHRデータをAIがリアルタイムで解析し、病気の発生確率を予測することで、本格的な発症前の早期介入や予防医療の実現が期待されています。
今後の展望として、医療ビッグデータと「ゲノム(全遺伝情報)」との連携が非常に重要視されています。個人のゲノム情報を解析することで、その人が将来どのような病気にかかりやすいか、どの薬が効きやすいかといった遺伝的な体質が分かります。このゲノム情報と、電子カルテや健診情報といった従来の医療ビッグデータを組み合わせることで、個別化医療(オーダーメイド医療)は新たなステージへと進むでしょう。
国立がん研究センターによる日本人のがんゲノム解析のように、ゲノム研究はすでに進展しています。これにより、将来的には一人ひとりの遺伝的背景に基づいた最適な予防法や治療法が提供されるようになり、医学の進歩に大きく寄与することが見込まれています。
医療ビッグデータの利活用は、医療の質の向上だけでなく、新たなビジネスチャンスとしても大きな注目を集めています。市場調査レポートによれば、世界の医療向けビッグデータアナリティクス市場は今後も急速な拡大が予測されており、日本国内においても、2027年度には市場規模が360億円に達するとの推計もあります(日本能率協会総合研究所調べ)。
CTCやNTTグループといった大手IT企業が相次いで医療データ事業に参入していることからも、その期待の高さがうかがえます。今後、法整備の進展やAI技術の進化に伴い、医療機関、製薬企業、ヘルスケアサービス企業など、多様なプレイヤーによるデータの利活用がさらに活発化し、市場はますます発展していくことでしょう。
医療ビッグデータは、医療機関や薬局などに散在していた膨大な医療情報を集約・分析可能にしたものであり、日本の医療が直面する超高齢化社会や医療費増大といった課題を解決する鍵として期待されています。その活用は、AIによる診断支援や個別化医療の実現、新薬開発の加速、医療機関の経営効率化など、多岐にわたります。
一方で、その活用には個人情報保護という重大な課題が伴いますが、「次世代医療基盤法」の整備や「データヘルス改革」の推進により、国を挙げた安全な利活用環境が整いつつあります。すでにCTCやNTTグループのような企業、横浜市のような自治体も具体的な取り組みを進めており、医療ビッグデータ市場は今後ますます拡大していくと予測されます。医療の質の向上と持続可能な社会保障制度の実現に向け、その動向から目が離せません。
多様化する市場ニーズに応えるためには、勘や経験に頼らないマーケティングが欠かせません。
本ページでは、製造業・サービス業・小売業などBtoCビジネスを展開する企業の課題に強い分析代行会社を、課題別にご紹介します。
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(※1)参照元:スマート・アナリティクス公式HP
(https://smart-analytics.jp/service/service_customerdata_analysis/)
(※2)参照元:インテージ公式HP・「ESOMAR's Global Top-50 Insights Companies 2024」に基づく(グループ連結売上高ベース)
(https://www.intage.co.jp/feature/)2025年6月時点